2月10日   消えた想い

 

 

今日の日記は、書いてはいけないことのような気がする。

それは、ずっと、オレの頭の中にあって離れないことだ。

 

ふと、立ち止まって考えることがあると

必ずのように、このことが頭によぎってしまう。

 

 

これを書くのは、おそらく人間として

一番やってはいけないことのような気がする。

いや、

絶対にやってはならないことだろう。

 

 

 


 

それは、3年ほど前のこと。 

オレが高校生の時だ。

 

 

 

 

電話がかかってきた。

ぷるるるるる。

電話には母親が出た。

 

母親 「はい・・・・。 

    ・・・・分かりました。 わざわざありがとうございます。」

 

 

何気ない電話。

そう思っていた。

 

しかし、母親の口から発せられる言葉はオレにとって信じられないものだった。

 

 

 

 

 

 

母親 「A子さん、自殺したみたい・・・。」

 

 

 

?!

 

 

 

一瞬、何が起きたのか分からなくなった。

 

自殺?

耳にする単語ではあるが、想像することの出来ない単語だ。

 

お兄 「自殺・・・。」

 

そっと口に出してみた。

しかし、オレにはそれが何を示しているのか分からなかった。

 

何・・・。

何が・・。

 

 

オレの思考を遮るかのように母親が口を動かし続ける。

母親 「首をつったんだって。 お葬式は明後日らしいから・・。」

 

 

 

オレの思考は完全に止まっていた。

ただ、彼女の「首を吊る」シーンが頭の中で浮かんでいた。

 

ロープをかける。

足場に乗る。

首にロープをかける。

足場を蹴る。

宙に浮く。

ロープが締まる。

息が出来なくなる。

 ・

死ぬ

 

 

そんな、彼女の死ぬシーンしか頭に浮かばなかった。

その日はもう何も出来なかった。

自殺が頭から離れなかった。

 

 


 

 

実は、彼女は病院に入院していた。

精神病院だ。

ノイローゼである。

 

A子が首をつった理由は「ノイローゼ」ということで片付けられた。

 

 

しかし、彼女はイジメではないが、周りから疎外されていた。

彼女は美人ではなかった。

が、特別ブスでもなかった。

 

ただ、考え方が周りと少し違っていたのだ。

何か行動しても、ギクシャクしていた。

空回りしていた。

人と付き合うということを苦手としていた。

いつも、一人で絵を描いていたイメージがある。

 

A子は、昔から周りと溶け込む事を苦手としていた。

疎外は中学に入ってさらに強くなり、彼女は孤独になった。

 

オレの中学校は、当時、部活が強制で、何かに所属しなくてはならなかった。

しかし、小さな中学校。

部活を選ぶことなんて出来なかった。

男にとっては、野球、陸上、水泳、卓球の4つ。

女にとっては、陸上、水泳、バレー、卓球、吹奏楽の5つのみ。

A子は吹奏楽部に入ったが、先輩達からの教育に耐えられず辞めた。

その後、バレー部に入ったが、また教育に耐えられず辞めた。

 

ところで、この部活の「教育」、厳しくはあったが、ただの指導だったと思う。

先輩が、やり方を教え、悪い所があれば怒って指導する。

しかし、A子にとっては、それが耐えられなかったらしい。

彼女は注意をされると、思い悩む性格だったからだ。

彼女にとって、この指導はイジメでしかなかったのだろう。

彼女は部活をよく休むようになった。

 

A子は、部活どころか学校も休むようになった。

そのまま中学を卒業するまで、ほとんど学校には来なくなった。

 

 

 


 

A子の『自殺』を聞かされた翌日。

 

いつものように、朝の電車に乗る。

みんな、A子の話題だ。

 

「なぁ、A子死んだらしいな・・・。」

「あれって、やっぱりいじめが原因ってことか?」

「いや、でも中学卒業してから、2年くらい経つぞ。」

「やっぱりノイローゼだったんじゃないか。」

 

そんな話題ばかり。

もちろんA子のことは話の話題になるが、

誰一人として決して彼女が死んだことを悲しんでいる者はいないようだった。

 

学校が終わり、電車に乗ってまた帰る。

中学時代の友人達に電車で会う。

帰りもその話題だ。

 

B  「あぁ、自殺か。」

オレ 「なんか首吊りって、考えるとへこむな。」

C  「葬式明日だろ。」

オレ 「そうみたいだな。」

C  「行くか?」

オレ 「いや、行くだろ、バカ。」

B  「自殺したヤツの葬式って想像つかないんだけど。」

C  「A子の親とか、どんな顔なんだろ。」

オレ 「すっげ、気まずいよな。」

C  「あんまり行きたくねぇんだけど。」

 

 

電車は、オレ達のいつもの駅にたどりつく。

ホームに下りて駅の外に出ると、そこにはA子の両親がいた。

 

遠目でも、彼らが殺気立っていることが分かった。

駅から降りてくるオレ達のことを睨んでいる。

 

恐い。

瞬間的にそう感じた。

 

彼らにとっては、自分の娘をなくしたのだ。

自殺という一番最悪な形で。

 

A子の親は、中学の時A子とバレーボールをやっていた人間と話をしていた。

 

かなり親達は殺気立っている。

当たり前だが、一番悲しかったのは自分の娘を失った親だったのだろう。

声も聞こえてきた。

A子を殺したのは貴方達だ。

貴方達がA子を殺した。

 

 

 

 

オレ達は彼らに会うのが恐くて、そこから逃げ出してしまった。

 

しかも、翌日の葬式にも出席するのも全員止めてしまった。

学校が忙しい、というウソの理由をついて・・・。

 

変わりにオレの母親に行ってもらったのだが、

A子の母親から色々と言われたらしい。

 

『感謝している。』

みたいなことを。

 

 

そのことを聞いたとき、かなりドキドキした。

オレは彼女を傷つけるようなことをした記憶は無い。

 

むしろ、彼女と同じく絵を描くのが好きだったり、

アニメが好きだったりでたまに話もしていた。

 

しかし、彼女の悩みを聞いたり、自殺を止めようとしたりは

一度もしてあげられなかった。

 

 

A子の母親から言われた感謝しているとは、どんな意味なのだろうか?

 

今でも考えさせられる。

オレには何が出来たのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

ちくしょう。

なんで死にやがったんだよ。

今ならお前の描く絵にも負けないぞ。

 

オレ、あれから水彩画描くようになったんだ。

オレの描いた寺院の絵。

マジで、すごいよ。

見たらびっくりするって。

木漏れ日の感じとかさ、よく描けてるんだよ。

他校の女の子とか、あの絵見てオレの名前覚えてくれたくらいだよ。

なぁ、だからもう1回、絵の大会に出展して勝負しようよ。

 

今度こそ、絶対、お前よりいい賞とってやるよ。

 

 

 

 

 

まぁ、死んだヤツに何を言ってもしかたないんだけどな・・・。

オレは常にお前を追い越せるようがんばってるんだよ。

 

 

 

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